店長日記

「鈍太郎」・・・・・・・・・野村万之介

2011年02月21日

 狂言師・野村万之介さんが昨年の12月25日に肺炎のため亡くなられたという記事を目にしました。
狂言師といえば、野村万作・萬斎さんしか思い浮かばなかった私ですが、昨年の5月、鹿児島で万之介さんがシテの「鈍太郎」を観る機会に恵まれ、いっぺんでファンになりました。

 演目「鈍太郎」は、西国より3年ぶりに戻った鈍太郎が本妻と愛人を訪ねますが、まさか本物の鈍太郎とは思わず二人とも相手にしません。悲観した鈍太郎は出家し修行の旅に出ようとします。それを聞きつけた二人は、何とか力を合わせ、出家を思いとどまらせようとするのですが、鈍太郎は、なかなか「うん」とは言いません。二人の説得に、ひと月を前半後半15日ずつ、互いに分け合えなどと自分勝手な注文をつけ、挙句には二人に手車をさせ得意満面に帰っていくというもの。

 とてもわかりやすい内容で、私のような初心者でも、十分に楽しめました。特に最後の場面、鈍太郎が、二人の手車に乗って帰る時、「これは誰が手車」と呼びかけ「鈍太郎殿の手車」と答えるのですが、本妻には苦々しい表情、愛人には優しい表情と、その露骨さに思わず吹き出してしまいました。万之介さんの声、飄飄とした雰囲気がぴったりで、本来なら嫌な奴のはずの鈍太郎が憎めない奴に見えてくるのは、ひとえに万之介さんのなせる技と思います。萬斎さんのように華のある方ではありませんでしたが、味があり、風のような感じがしました。
もう二度とあの狂言を観ることができないことは、とても残念ですが、一度でも、万之介さんの狂言を観ることが出来たことに感謝したいと思います。心からご冥福をお祈り致します。

 余談ながら、始まる前のレクチャートークで萬斎さんが「『鈍太郎』は私の母など、あまり好きでない狂言で・・・・・」と話されていました。陰暦では大の月(30日)、小の月(29日)があり、ひと月の前半15日をもらった愛人が得をしたのではないかと思うと、萬斎さんのお母様のお気持ちもわかるような気がしました。
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